この本は、自然栽培について科学的なアプローチで解説しており、勉強になりました。
特に根粒菌やAM菌の働きによって、窒素やリンを入れなくてもある程度の栽培が可能であることが想像できました。
また、自然栽培の方法として土壌中の蓄えられたリンを利用するという手法について、長期的な持続可能性に問題があることが書かれており、私自身も疑問に思っていた点でしたので、スッキリしました。
また、試験圃場における無肥料栽培の6年目でライゾビアーレ細菌群(窒素固定菌など)が増加し、窒素供給が増加したという話に興味を持ちました。
CN比を高くすることで窒素固定菌を優位にするという話には納得しました。
また、C(炭素)を投入しないパターンもあるという点は興味深いです。作物の根から分泌される糖類が窒素固定菌の栄養源となる可能性はありえると感じました。
一方で、条件の悪い土壌においては自然栽培の収量改善の可能性は低いとされており、慣行栽培では化学肥料や土壌改良剤の投入によって土壌の生産性を向上させることができるとの指摘もありました。
これから自然栽培を考える際には、場所の選定が重要であることが分かります。
また、虫や病気を引き寄せやすくする窒素過多は自然栽培において起こりうると書いてありました。それは逆に微生物の窒素固定能力のすごさを感じました。
病害虫防除においては、天敵の利用や物理的隔離、捕殺といった基本的な方法が書かれていました。
有機JASでも使える天然由来の農薬に関しては、ボルドー剤(硫酸銅)などの非選択性農薬は農地の天敵の多様性においてマイナスであるが、
ナタネ油乳剤やデンプン水和剤などの気門封鎖材などのについては選択制が高いので生物群集に与える影響は小さいと書かれてあり、有機JASで使える農薬でも使用に関してはその点は頭に入れておいた方がいいと思いました。
病原菌に対しては拮抗微生物が重要な役割を果たしていると述べられています。
植物免疫の活性化についても言及されています
それらは自然栽培だけでなく、有機栽培や慣行栽培でも共通の方法であると思いました。
また、発病抑止土壌という病害管理をしなくても病気が発病しない土壌があるというのには驚かされました。
その土壌は60℃ほどの温度処理で抑止能力が失われるそうです。おそらく有用微生物が死ぬからです。
まだ知られていない拮抗微生物は土壌中に多数生息していると考えると微生物に対する期待がまだまだ感じられます。
次に、自然栽培の野菜の味についてです。自然栽培の野菜は「雑味がない」と述べられています。
一方、慣行栽培では富栄養な土壌を作り出すことにより、硝酸体窒素がたまり苦味がするものが多いとされています。
その点、自然栽培の作物は雑味が少なく、イヤな後味が残らないとされています。
私は仕事がら色んな野菜を食べますが、個人的な感覚ですが、自然栽培の野菜はたしかに雑味が少なくスッと味が消えていく食感です。一方、ちゃんと窒素のコントロールができている有機栽培、慣行栽培の野菜は後味にうまみがあって味が残ります。どちらが好きかは好みだと思っています。
最後に、本書のあとがきでは、自然栽培は作物栽培における補助エネルギーの投入ではなく、農地の生態系システムを活性化させることで作物の生産性向上を図る技術であるということが述べられています。
この考えはすばらしいと思いました。
私は、自然栽培もいいですが、それにとらわれる事なく、ここで培われた技術が有機農業や慣行農業でも応用できたらよりよい農業が広がると思います。