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大地の5億年 せめぎあう土と生き物たち(藤井一至)

2015年に新書として発行された著書の文庫版。土壌の写真等がカラーになってとても見やすくなっています。

7年前に発行された書籍ですが、エネルギー危機、食糧危機の可能性を指摘する声が大きくなった今こそ貴重な資源である「土」と向き合うのに適した書籍だと思います。

そんな「土」が誕生した5億の歴史、ヒトと深く関わるようになった1万年の歴史。そして、世界で起こっている「土」に関する問題なども学べます。

土の5億年の歴史はスケールが大きく、1億年単位で主役となるプレイヤーが入れ替わり、それによって土や地球環境も変化していきます。読んでいたら5億年の歴史が短く感じられました。

その中でたった1万年の歴史である「農耕」については「ヒトに源を発する環境問題のはじまり」と表現されています。

乾燥への適応をした灌漑農業によって農耕がはじまったメソポタミア文明、エジプト文明。これらの農業はなぜ失敗したのか?
少しのほころびで作物ができなくなってしまう農業や生態系のバランスの難しさを感じさせられました。

日本農業においては循環的で良いと思われている里山文化は実際はそうでもないようです。
農業のために森から落ち葉や若い枝葉を奪っていたのではげ山になっていたそうです。

一方、鎌倉時代からはじまったとされるヒトのフン尿リサイクルは持続性の面では良さそうです。

今の時代、それに代わるのは牛などのフン肥料。

ただ、現場では良質のよい牛フン肥料(堆肥)じゃないと農家は使用しません。よりレベルの高い堆肥化の技術をもった堆肥センターが増えて地域の資源を循環できたらいいなと思いました。
それに、家畜のエサはほとんどが海外から輸入されている事も忘れてはいけないようです。
家畜のエサを栽培してくれている農地は乾燥地なので土壌劣化のリスクを抱えているそうです。

そうなると人フン尿堆肥の復活がより持続可能な農業なのでは?と個人的には思いました。

他にも除草剤(グリホサート)と遺伝子組み換えのセットの不耕起栽培で土壌侵食を防いでいる事例が紹介されていたり、今でこそ良い土とされている黒ぼく土は化学肥料誕生以前では良い土ではなかったり、だからこそダイズ栽培に向いていたり、農地の炭素貯蔵の可能性の高さも感じさせられたり色々と考えさせられる事の多い本です。

問題となっている土壌の酸性についても、化学肥料やミネラルの流亡によって引き起こされる酸性と
植物から放出される根酸や微生物による有機物分解によって引き起こされる酸性は別物だと感じました。

そして、著書の中には「人間が自ら引き起こした変化に対応できるとすればやはり人間の知恵や技術しかない」と書いてあります。

様々な問題を抱えている大切な資源である「土」の恩恵を受け続けるにはどうしたらいいのか?
みんなが考えていかなければならない事だと思いました。