「あいつは人が死んでも何とも思わない!!」
強面のおじさんは言います。
「ツバメの巣を壊す時も無表情なんやぞ。」
春になるとタマネギ小屋にツバメがやってきて巣を作り始めます。
可哀そうですが、業務に支障が出るので壊します。
「感情がないんや!」
本当にそうなのでしょうか?
農場長と二人になった時に聞いてみました。
「従業員2人も死んだのに平気そうに見えますけど、慣れてるんすか?」
以前にも死人が出たことがある会社なので、こんな聞き方になってしまいました。
すると、農場長は少し感情的になって反論しました。
「そんなことありません!!」
うつむきながら話します。
「死ぬってどういう感じなんですかね、、、」
地面を掘っているイモムシを見ます。
「虫って殺される瞬間どう思うのでしょうか?」
この農場は有機農業なのもあって、虫をプチプチ潰して殺していく仕事があります。
例えば、キャベツを作るのに虫が入ってこないようにネットをします。
しかし、わずかな隙間をくぐって蝶々が侵入し、産卵してたくさんの青虫が生まれます。
それをプチプチ潰していきます。
殺し損ねたらネットの中が蝶々だらけになります。
その場合はネットを順番に縮めて蝶々を端っこに追いやって一気に潰します。
このように虫を殺すのが農場長にとって身近な「死」なのかもしれません。
「死んだらどうなると思いますか?」
そんなことを聞かれても困ります。
「死んでみないと分かりません。」
タマネギ小屋に戻り、強面のおじさんに報告します。
「やっぱり気に病んでましたよ。虫が殺される時どんな気分なのか考えてました。」
強面のおじさんは少し表情を緩めて言いました。
「悲しみ方も気持ち悪い!」