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土の文明史(デイビッド・モントゴメリー)

農耕と土はどのような歴史をたどってきたか?現在の土はどうなのか?全10章にもなる大作だが、どの章も読みごたえがり、考えさせられる内容だったので読むのに時間がかかりました。

「第一章 泥に書かれた歴史」

土壌を保全できなかった事が初期の農耕文明から古代ギリシア、ローマに至る社会の終焉の一因と書いてあります。

また、それらの多くは共通の筋を通っているといいます。肥沃な谷床での農業→人口増加により傾斜地での耕作→植物が切り払われ、耕起による土壌侵食。

日本はどうだったろうか?考えさせられます。

「第二章 地球の皮膚」

土壌形成の歴史や土壌の仕組みについて書かれています。

500gの肥沃な泥の中にいる生物の数は世界人口をしのぐ。耕耘や農薬によってそれらを殺してしまうと指摘しています。

土壌侵食を遅らせるには「急斜面を階段状に」「不耕起」「作物残渣を鋤き込まずマルチに」「間作」を挙げていますが、日本は条件が違うので「不耕起」は難しいと思います。

「第3章 生命の川」

チグリス、ユーフラテス川近郊のメソポタミア文明、ナイル川近郊のエジプト文明などの話。

メソポタミア文明は 鋤の出現→人口増加→灌漑による毛細管現象で塩類集積さらに休耕ができなくなった事などが原因で収穫量が低下し弱体化したそうです。

エジプト文明は年に一度の洪水で栄養が運びこまれる事により数千年にわたって驚くほど生産力が高かったそうです。 しかし近代になると、ダム建設によって安定した農業環境が破壊されてしまいました。

乾燥地域のメソポタミア文明で起こった塩類集積は雨の多い日本ではあまり見られません。 あと、私の知り合いの農家さんで毎年多雨により水没する畑で無施肥でも収量上げている人がいます。それはエジプト文明の農業と同じ原理なのかもしれません。

「第4章 帝国の墓場」

古代ギリシア、ローマ帝国、マヤ文明の土壌劣化の事が書かれています。

古代ギリシアにおいて土壌侵食が土壌生成を上回ったのは鋤が導入されてからだそうです。

ローマも同様に耕すことで表土がはぎとられました。適切な手入れをし、まめに肥料を与えるなら肥沃さを保ちつづけられると知っていましたが、貧困によりそれができませんでした。 ローマの属州である穀倉地帯、北アフリカの食糧に頼るようになったそうです。

マヤ文明はアメリカ大陸の土壌劣化の代表例だそうです。マヤの農耕は焼畑農業。人口が増えるにつれ移動しなくなり同じ場所で耕作を行うことにより生産力は失われました。家畜がいなく、肥料を得られなかったのも問題だったそうです。

傾斜地における耕耘の危険さ、堆肥や肥料の大切さを歴史から学ぶことができます。

「第5章 食い物にされる植民地」

イギリスの森を切り開いていった歴史と増加する人口について。

土壌が増えた人口を支えられなくなるのでアメリカへの移民を勧めるようになったそうです。

「第6章 西へ向かう鍬」

先住民による積極的な景観管理をしていたアメリカがヨーロッパの住民の入植により変貌した歴史について書かれています。

新しい土地が手に入りやすいので輪作や厩肥の使用を軽視したそうです。しかし、新しい土地が不足するにつれ土壌保全の声が大きくなったと。

「第7章 砂塵の平原」

続いてアメリカの話。1838年にジョンディアによる鋼鉄製の鋤の発明のよりさらなる土壌侵食。

収量は停滞、土地の肥沃度は低下しました。しかし、浸食被害を止めるインセンティブがなかったのでさらに浸食が進んだそうです。

戦後、穀物の価格が暴落してもアメリカ、グレートプレーンズの農家は作付け面積を減らしませんでした。破滅すると分かっていても負債を払うために破滅するような農業慣行を拡張するしかなかったそうです。

アメリカ政府は1933年に農業補助金制度を始めたが、農家の負債は2倍以上になり、所得は3分の1しか増えませんでした。1992年、米国農業センサスの報告で2400ヘクタールを超える規模の農家と比較すると、11ヘクタール未満の農家は10倍以上生産性が高いとされたそうです。

アメリカの大規模農業は儲かっているイメージがありましたが、多額の借金の上に成り立っているようです。そして、この表現からアメリカの小規模農家は日本にとっては大規模農家だという事が分かります。

「第8章ダーティービジネス」

ハーバーボッシュ法 による化学肥料の発明によって農業生産が倍増した反面、化学肥料の依存により輪作や休耕をやめ、さらに畜産と耕作が切り離された事を指摘しています。

この「緑の革命」によって農業生産は増大しましたが人口が並行して増えたため飢餓は終わらせなかったそうです。そして、今世紀に入って石油価格が上昇し続けているため、このサイクルは壊滅的な結果を伴って失速するかもしれないとも指摘しています。

ヨーロッパは世界の資源を大きく支配することで人口増加に対処。アメリカは西へと拡張することで。 現在、耕作可能地という基盤が縮小し、安価な石油もつきかけようとしています。

「世界は全人類を食べさせる新しいモデルを必要としている。」 と書いてあります。

そんなモデルがあるのでしょうか?

「第9章成功した島、失敗した島」

土壌侵食を起こしてしまったイースター島、マンガイア島と持続可能な農業に成功したティコピア島の話が書かれています。

しかし、そのティコピア島も人口をゼロにする宗教観念。禁欲、避妊、人工中絶、間引き、強制移住(ほとんど確実的に自殺的な)などを基礎にした人口抑制を行っていたそうです。

ユートピア的農業は人口抑制とトレードオフになるようです。

また、キューバのアメリカからの経済制裁により化学肥料と農薬が手に入らなくなった事から有機農場になったという話もおもしろかったです。 それは伝統的農業の回帰ではなく科学に立脚したものだというは印象的です。

科学の可能性を信じたくなります。

「第10章文明の寿命」

農業生産に使える未耕地はもうないので農業技術の大きな進歩が必要だそうです。面積あたりの収穫量を上げるか人口抑制をするか。さらに土壌生成と侵食のバランスも保たないといけないと書かれてあります。 なかなかの難題のようにに感じます。

また、石油高騰により物流費も高騰するので非グローバル化が魅力的で効率的。 という考えには確かにそうかもしれないと思いました。 といっても個人的にはこれからの日本は輸出や外国人観光客に向けた事業が熱いと思いますが。

土壌侵食と食料不足の切迫を警告する声の中には誇張されたものもあるが、 「過度に不安を煽る予言は軽視される」 と書いてあります。 この考えはとても大事だと思いました。

そして、文明の生存は土壌を投資としての商品ではなく価値のある相続財産とするべきと書いてあります。

この著書を読んで土は貴重な資源だとあらためて感じる事ができました。

おわり

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